六
六
(この一帯を隔離し、村人には予防用のワクチンをうたせて……)
思考するバーンハルトの足が止まる。
元気に走り回っていた少女の足が止まったからだ。
「どうした?」
どこか具合でも悪くなったのだろうか。そう思って問い掛けたが、首は横に振られた。疲れたのではないらしい。少女は、父親と母親、そしてその子ども、ごく普通に話す一家の団欒を見ている。この家庭は今のところは、黒死病におかされていない様だ。
少女が注視しているのは、父親だ。
(そういえば、俺が負ぶってやった時はかなり喜んでいたな)
「父親が、いないのか?」
ゆっくりと頷く。
「…………」
少女は無言で、その団欒を見ている。顔は悲しげで、今にも泣き出しそうに見えた。
(……くそっ!)
何故かはわからないが、バーンハルトは苛ついていた。
乱雑に漆黒の頭髪をかきあげると、少女を肩に乗せた。
「どうだ。高い視点から見る景色というのはいいものだぞ」
肩車された少女は呆然としたのち、バーンハルトの黒髪を引っ張って声をあげる。
「髪は引っ張るなと言ったはずだ」
バーンハルトは憮然として注意するが、声に非難するような響きはない。きゃっきゃと騒ぐ少女は彼の頭にしがみ付く。
「……首が疲れる。頭に体重をかけるな……」
鍛え上げられた屈強な男と、がりがりに痩せた少女という組み合わせは何ともアンバランスに見える。
夕日を背にした二つの交わる影からは、どうしてか親しみのようなものが感じられた。