黒死

「本当に申し訳ありません」

「……気にするな」

母親の礼に、憮然とした表情でバーンハルトは答える。

 憮然としているのは、少女や母親に対するものではないのだが、彼女にそう受け取られても仕方が無い。

少女は少年の傍らで薄い布を一枚だけ掛けて眠っている。彼等の衣服は破れかけており、みすぼらしいことこの上ない。

(……これではどのみち、先は知れているな)

今日生き延びる事が出来ても、明日、死んでもおかしくない。この家族はまさしく、今の星の状況を如実に物語っていた。そしてバーンハルトは、そんな状況を変えたくてレジスタンスを脱退し、クリムゾンに降ったのだ。バーンハルトの心が、僅かばかり動く。

(……やれるだけのことはやっておいて、損はあるまい)

バーンハルトは立ち上がり、しばし思案する。そして、

「……これをやる。隊商にでも売って、家計の足しにでもしろ。砂漠を巡る隊商の一団が、じきにやってくるはずだ。」

手渡したのは身につけていた漆黒のマント。耐熱仕様の高価なものだ。これを売れば一年くらいは食う事には困らないはずだ。

「……いいんですか?」

「子どもを飢えさせたいのか? なら、これは必要ないが……」

クリムゾンの人間から、民間人が物を受け取るのは屈辱だろうと考えたバーンハルトはそう問い掛けた。