黒死

「いえ。そうではなくて……」

母親は困惑したように視線を泳がせて、

「それを私に与えると、貴方が困るのではないですか?」

バーンハルトを見つめる。ふっ、と笑うと、

「人の心配をする余裕が、あんたにあるのか?」

マントを握った手を突き出す。母親は頭を深々と下げながら、

「ありがとうございます」

そう礼を言った。しかし、バーンハルトは、

「礼を言われる筋合いはない」

硬い声で答える。

「命令があれば、俺は人殺しも厭わない輩だ」

そして後ろを向く。

「今日は助けても、明日も助けるとは限らん」

闇を巻きつけた声で彼は答える。

砂を踏み締める音が、母親には悲しく聞こえた。